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マレーシアの法廷の表裏 第1回 腱鞘炎(けんしょうえん)続出の裁判官たち ここ数年、マレーシア在住の日系企業や日本人関係の係争案件が増加したのか、私が有名になって仕事がたくさん回ってくるようになったのかは分かりませんが、マレーシアの法廷に、月に多い時で15日、少ない時でも3日は法廷通訳者あるいは法務アドバイザーとして行くようになりました。 高等裁判所、控訴院、治安判事裁判所、仲裁所のどこに行っても思うことですが、マレーシアの裁判官はひたすら手を動かし、書いて書いて書きまくっています。何を書いているのかというと裁判所の法廷で行われたすべての発言です。弁護士が尋問し、証人が答えるといったすべてのプロセスを一言一句漏らさず、書き続けます。 裁判風景を映した映画やテレビのドラマなどで、アメリカや日本の法廷を見ると裁判官が書き物に没頭している風景は目にしませんが、マレーシアでは裁判官自身がすべてを記録することになっており、長い時には2時間連続で書きまくるのが、裁判中の裁判官の姿です。多くの裁判官が腱鞘炎になっているとの統計はありませんが、おそらく老齢になれば、腱鞘炎になる裁判官は多いのではないかと思います。 ところがここ1年ほど前からでしょうか、クアラルンプールの高等裁判所の法廷内にパソコンが置かれ、数台の最新式のTFTのスクリーンが法廷でのやりとりをその画面に映し出すようになりました。音声認識ソフトを使って、音声を文字化しているのではなく、書記の女性がタイプした内容が映し出されることになっています。 私がそこで見た情景は、さすがマレーシア!という感じでした。スカーフを被った20歳そこそこの裁判所の女子職員が、弁護士の言っていることとはかなり違う内容をどんどんタイプし、法廷にいる他の人々には聞き取れないほどの小さな声の証人の証言もすらすらとタイプしていくのです。もちろん証言とはほとんど違った内容がスクリーンに映し出されてきました。裁判官は、身を乗り出して、「違う!違う!」と叫び、弁護士は一字一句訂正しようとし大声を出し、女子職員は証人に「もっとはっきりしゃべって!」と叫びまくり、なかなかすごい状況を呈していました。 他の法廷ではまだコンピュータは導入になったとは聞いていません。裁判官は法廷がめちゃくちゃになるより、腱鞘炎になっても自分で記録を取る道を選ぶような気がしています。 (2005年3月3日) |