マレーシアの法廷の表裏
第2回 マレーシアの弁護士って司法書士?

マレーシアにはたくさんの弁護士がいます。しかし法廷に立って裁判で争う、日本でいういわゆる弁護士、イギリスでいうBarrister (法廷弁護士)はその内の数割という感じです。資格的には全員が弁護士ですが、多くのマレーシアの弁護士は法廷に行かず、契約書を作ったり、会社の顧問として債権の取立ての手紙を書いたり、政府への申請書類を書いたりと、日本でいう司法書士や行政書士の仕事をしています。逆に言いますと、マレーシアに司法書士や行政書士はいないということなります。

「いやいるぞ!」とおっしゃる方もいるかもしれません。「登記事務所などの外で、机と椅子とタイプライターを置いて、でんと座って、1本指でタイプを打って書類を作成しているインド人のおっさんたちは司法書士か行政書士ではないのか?」あの人たちは、英語でいうとPetition Writer(嘆願書書き)という職業の人で、特別な資格ではなく、裁判所などの事務員を定年退職した人たちです。最近はパソコンの普及でカット・アンド・ペーストができるので、仕事が極度に減少したと思いますが、その昔は、住宅の賃貸などの契約書はこれらの嘆願書書きのおじさんたちが、雛形を持っていて、1回ごとにタイプをして、人々は20リンギット(約600円)くらいのお礼を払って契約書を作ってもらっていました。

因みに、私が初めてマレーシアで借りた事務所の家賃は400リンギット(約12000円)で、その時大家が持ってきた賃貸契約書が嘆願書書きのおっさんのタイプしたものでした。タイプのミスがあったり、内容がめちゃくちゃだったので、作り直したいと大家に言いますと、「20リンギットも払って作ってもらったんだから、作り直す代金はお前が払え」と言われたのを思い出します。

もう1つ。マレーシアのジョホールからシンガポールへ行くバスの乗り場の前に、シンガポールの入国カードを代書する人々が机を並べていたのを思い出します。1枚いくらで買いていたのかは定かではありませんが、30円くらいだったような気がします。日本で外国の入国カードを旅行会社に依頼して書いてもらうと1枚3000円とかの規定料金があるとか聞きましたが、日本に較べれば、ずいぶん安いものです。

本題に戻りまして、マレーシアでは弁護士と言っても、法廷に出ない、司法書士や行政書士の仕事しかしていない弁護士がたくさんいるということの及ぼす影響について話を進めていきます。その法廷に立たない弁護士というのが多くの場合、顧客にとっては曲者なのです。会社の顧問弁護士のような仕事を依頼する場合は、訴訟を起こしたり、起こされたりしない限り、そのような弁護士で事足りるわけですが、通常、日本人や日系人が弁護士にお世話になるケースは訴訟が絡んでくるものです。合弁契約の違反、委託生産の違反、著作権や商標の侵害、未払い代金の回収などは皆、裁判に関係するものです。そのような裁判案件のことで、マレーシアに詳しい人や日本政府関係機関の人から紹介された弁護士事務所を訪問して、相談して、いざ告訴とかいうことになると、自分は法廷に立たない(「立てない」とは言わない)ので、友人の弁護士事務所に依頼します、と話が展開します。となるとどういうことが起こるのでしょう。まずその時点で弁護士費用は2倍に膨れ上がるということです。そしてもともと法廷で闘ったことのない弁護士のアドバイスなど、法学部の学生のアドバイスとさして変わらない机上の空論ですので、法廷弁護士と打ち合わせを始めると、争いの方針の転換も変わってしまいます。

私のお客様で、実際にある弁護士を日本政府関係の出先機関の日本人の方(もう帰国されました)から紹介してもらい、金銭的に損をし、裁判の結果も無残なものになった方がおられます。なぜその弁護士が紹介されたのかというと、その弁護士が日本語が少しできるということのみの理由です。日本語ができても法廷には立た(て)ない弁護士ですので、法廷で争う時には、別の弁護士に依頼することになり、料金の2重取りです。そして法廷弁護士も、「急に頼まれたので、何がなんだかよくわからないので、まず延期を申請し、ちゃんと前納で払ってくれれば、きちんと勉強して戦おうと思うけど、あのお客さん、お金ちゃんと払うかな?」、と私に聞いてくる始末です。そのお客様は日本語がちょっとしゃべれるからという理由だけで、弁護士ならなんでも同じだろうと思って、法廷にも立てない弁護士を紹介した親切な日本政府のお役人に対して怒りをあらわにしていました。

マレーシアで裁判の当事者になった時は、法廷弁護士と直接契約することがまず何よりも大切なことです。間違っても日本語ができることに惑わされてはいけません。日本語の通訳は私にお任せください。(自己宣伝してすみません。)

(2005年3月9日)