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マレーシアの法廷の表裏 第3回 凶悪犯の隣の席に座った私 マレーシアの裁判制度も日本と同様で、通常の案件の場合、高等裁判所から控訴院、連邦裁判所と3段階の裁判が行われることになっています。高等裁判所は、民事と刑事の法廷は分かれ、クアラルンプールでは民事の中でも一般民事と商業民事に法廷が分かれています。ところが控訴院となるとすべてが『一緒くた』です。 『一緒くた』とは、控訴院の1つの法廷で刑事も民事も一緒に扱うのです。法廷は朝の9時から開廷となっておりますが、9時半くらいに3人の裁判官が現れ、一同起立し、礼をして開廷です。そこまでは日本のテレビドラマなどの法廷と同じです。いや、日本では9時開廷なら、9時に裁判官が出て来るはずですが、マレーシアでは必ず遅れて出てきます。時間厳守をしない国民性は裁判所でも実践されています。 法廷の中は、3つの部分に分かれていて、裁判官の座る席、そして弁護士や証人が座る席、そして傍聴席です。控訴院や刑事法廷の場合には、部屋の中央に柵で囲いをした犯罪者の席が設けられています。控訴院では、その弁護士たちの座る席に、通常、月曜日の朝には50人近い弁護士がひしめきあっていて、内側の席に座れなかった弁護士が傍聴席にまであふれて座っています。なぜそんなことになるのかというと月曜日にその週に審理をされるすべての案件を担当する弁護士が集められ、そこでその週の何日の何時からどの案件が審理されるかの申し渡しがあります。申し渡しというより、弁護士たちが自分や証人の都合を言い立て、いつにして欲しいと裁判官と掛け合い、日程を決めるのです。決まりますと、その日に審理のない裁判官は外に出ていくという形です。 そして傍聴席の方はといいますと、民事の関係の人は原告や被告とその関係が来ており、刑事の関係の場合には、柵の中に収まり切らなかった刑事犯たちが警察官に手錠をつながれ、座っています。そしてそれらの刑事犯の家族と思しき人々もたくさん傍聴席にいます。その光景はちょっとした地方都市の駅の待合室状態です。マレーシアの法廷では、傍聴席に座るのに、身分証明書の提示も必要ないし、傍聴券の取得も必要ありません。いつでも誰でも法廷に入ってくることができます。ですから刑事犯の仲間が集団で来て、刑事犯を奪っていくことも、いとも簡単にできる状態といえなくもありません。そのようなことがあったとは聞いたことはありませんが・・・ 審理の方は、裁判官が1つずつ案件をこなしていくわけですが、いつ前の案件が終わるのか分からないので、その日に審理される案件の関係者は皆、法廷に座っていて、他の案件の審理が終わるのを待っています。つまり他人の審理を多くの人が聞いているわけです。これほど公開が進んでいるとは、マレーシアは情報公開先進国ではないかと思ってしまいます。いかにマレーシアの法廷がオープンかという1つの例を、私のお客様の控訴院での案件を例に説明します。その人は高等裁判所で勝訴したのですが、相手が控訴し、控訴院で争うことになりました。その相手は中国系のマレーシア人で、非常に変な考えの持ち主で、裁判官に向かって「相手が20万リンギットを私に払ってくれたら、自分は控訴を取り下げてもよい。この裁判を続ければ、相手はもっと費用がかかるのだから。」などと言いました。そこで法廷内の人々のどよめきが起こりました。裁判官は「高等裁判所で負けたのに、勝った方にお金を払えば、控訴を取り下げてやるとは、あなたにとっては裁判所も金儲けの手段というわけだな。」と冗談ぽく言ったので、法廷が大爆笑の渦に巻き込まれました。そこで笑った人の95%は私のお客様の案件と全く関係のない他の案件で裁判所に来ている人でした。裁判所で裁判官が冗談を言い、裁判所内が爆笑の渦に巻き込まれる、しかし笑っている人のほとんどが他の案件で来ている人々と、いうのですから、マレーシアの法廷はオープンそのものです。 いよいよ本題に入ります。お客様の審理のスケジュールを聞くために控訴院に月曜日の朝に行った時のことです。その日は刑事事件の方の多かったのか、警察官に連れられた、手錠に繋がれた刑事犯たちが法廷にあふれていました。私は傍聴席(長椅子)の一番前に座っていましたが、その私の隣りになんと警察官が刑事犯を連れてきたのです。傍聴席は非常に混んできて、だんだん席が詰まってきました。そして私はその刑事犯とぴったりくっついて座る羽目になってしまいました。30歳をちょっと過ぎたくらいの体格のいいインド系の刑事犯でした。なるべく彼の体に触れないようにしていても、反対側に太ったおばちゃんが座ってきて、どんどん私を押してくるので、どうしてもその刑事犯にくっついてしまいます。私はその刑事犯を見ないようにしていましたが、怖いもの見たさで、彼を見てしまいました。その刑事犯の人相はまさに映画に出て来る悪人の人相で、怖いと思っていると、目が合ってしまいました。保身の心が働いたのか、私は思わずニコッと微笑みました。彼も微笑み返してきたので、ちょっとほっとしました。でもその刑事犯が時々後ろを向いて、家族や友人と思しき人々を見ているのです。家族や友人も彼に劣らず悪そうな人相をしていたので、何か起こったら嫌だなあと恐れていました。しばらくして、その刑事犯が前に呼ばれ、出ていったので、やっと生きた心地がしました。彼の犯罪が読み上げられました。なんとその人は強盗殺人を犯したのでした。 マレーシアの控訴院へはできれば行きたくないと思う私です。 |