マレーシアの法廷の表裏
第5回 実しやかな常識の嘘・外国人は裁判で負ける

いわゆるマレーシア通といわれる日本人やマレーシア在住20年を越える日本人の中にはマレーシアのことはなんでも知っているとばかりに、「マレーシアで裁判をすると外国人は負ける。」と偉そうにうそぶく人がたくさんいます。おそらくそんなことを言う人の大半は1度もマレーシアの法廷に足を踏み入れた経験などないと思います。ないからこそ、そのような実しやかな嘘が言えるのです。

「マレーシアで裁判をすると外国人は負ける」という嘘の背景には、マレーシアが後進国で法律もきちんと整備されておらず、かつ裁判官も賄賂で買収できるのでは、などという思い込みがあると思います。もちろん車を運転していて交通違反をした時、警察官に賄賂を払って見逃しもらうようなことはできる国ではありますが、法律はきちんと整備されており、かつ英連邦の1国ということで、イギリスやカナダの判例も裁判の判断に使われますので、日本よりも国際的で、外国人に対しても日本より公平に裁判が行われているのが現状です。

日本よりも公平などといいますと、おかしい?と思われるかもしれませんが、それは紛れもない事実です。1つの事例を挙げて説明しましょう。マレーシアの裁判所では、マレーシア人どうしの裁判においては通常マレー語が使われますが、外国人が関係する場合には、英語を用います。そして記録もマレー語に翻訳して作成されるのではなく、英語で作成され、判決文も英語で出されます。この事実こそ、マレーシアの法廷が国際的であるという証拠です。英語は現代社会では紛れもなく国際言語です。英語で裁判が行われるということは、英語を母国語にする人にとってはもちろんフェアであるだけではありません。他の外国人でも、多くの人が英語を理解することができるので、その言語を用いて裁判が行われ、判決も英語で出されるということは、きわめて外国人にとってフェアであるといえます。

日本の法廷で、日本語以外の言語で法廷の審理が行われ、記録も英語で行われ、判決も英語で出される裁判というものを聞いたことがありません。もちろん通訳をつけることはできます。しかし英語と日本語の通訳はたくさんいるでしょうが、たとえば英語とタイ語の通訳者で、法廷での通訳ができる人が何人日本にいるでしょうか。私の知り合いのキリスト教関係のソーシャルワーカーから聞いた話ですが、東京でタイ人の女性の裁判が行われた時、通訳者が彼女が5分証言したのに、たった10秒くらいにまとめて通訳したので、彼女の言い分が裁判官に伝わらず、彼女は有罪になったという話を聞きました。しかし英語とタイ語の通訳なら法廷で通訳ができる人はいると思います。

裁判のシステムが英語を使うことを正式に取り入れているため、外国人でもマレーシア人と同じ土俵で裁判を争うことができるのです。そして判例はすべて判例ジャーナルに公開され、マレーシアだけでなく英連邦諸国のすべての判例となりますので、マレーシア人だからということで、有利な審判を下すことは裁判官にとってはためらわれることです。

私は仕事柄、マレーシアの裁判官と個人的に接することがありますが、多くの人が高潔で人格的にも立派な人ばかりです。中でも退官されましたが、ダト・V.C・ジョージ氏のように、マレーシアの司法を代表する人物として、イギリスを始めとする英連邦の司法界のセミナーで講演も行う国際レベルの裁判官もいます。そのような裁判官が導くマレーシアの裁判のことをどうして「いつも外国人が負ける」と言い切ることができるのでしょうか。

実際、私が関わった民事裁判で、きちんとした証拠が提出できた裁判では、日本人のお客様がほとんどの場合勝訴しています。外国人であるからという理由で、マレーシアでの裁判を決して恐れることはありません。正義を貫きたいと心に決めたら、法律に無知のマレーシア通や滞在が長いだけが取り柄の日本人の意見は無視をして、法廷で争うことをお勧めします。