マレーシアの法廷の表裏
第11回 法廷での証言心得

私はマレーシアの法廷での通訳を年に20回ほど、多い年には50回ほど担当し、多くの日本人の方の裁判所での証言のお手伝いをしています。私が通訳をする方のほとんどがマレーシアの法廷での証言が初めての方ばかりで、どの人も非常に緊張して、法廷で証言をしています。

どうして緊張しているのかが分かるかといいますと、まず証言の少し前くらいから、ほとんどの人の口臭が非常に臭くなってきます。つまり緊張で胃がおかしくなり、その匂いがしてくるのです。朝、裁判所で落ち合った時には全く口臭などなかった人ばかりです。職業とは言え、実は私は裁判所で悪臭に耐えながら仕事をしています。時々どうにも耐えられなくなり、ハンカチで自分の口と鼻をふさぐこともあります。

もう1つは、証人のほとんどの方が聞かれた質問と全く関係のない答えをしてしまうことからも緊張していることがわかります。そのような人はパニック状態になり、私が通訳をする質問を正しく聞き取ることができなくなってしまっています。1度、おかしな回答が始まるとそれがなかなか正常に戻らないことが多いので、私はできるだけ質問に答えやすように「『はい』か『いいえ』で答えください。」などと言葉を補って通訳しますが、パニック状態の人からは、「はい」でも「いいで」でもない、見当違いの回答が返ってくることが多く、通訳者として困り果ててしまうことがよくあります。

ほどんどの証人は自分が悪いことをしていなくても、証言台では緊張し、パニックに陥り、何を聞かれているのか、何を答えているのかもわからなくなってしまいます。そのような状況になることを防ぐ方法は、いくつかありますが、最も大切なことは、事前に弁護士、通訳者と一緒に証言の練習をすることです。自分の側の弁護士に実際に主尋問でする質問をしてもらい、それを通訳を通して聞き、通訳を通して回答すること、また相手の弁護士の行う反対尋問の質問を自分の弁護士に予想してもらい、それを通訳を通して聞き、通訳を通して回答すること、その練習をしてください。1度だけの練習でうまくいかないことが多いので、数回練習することをお勧めします。

それから覚えておいていただきたいことは、法廷での証言の際には、カンニング・ペーパーは持ち込んではいけないということです。裁判所に証拠文書として提出している文書を証言の際に、参照することは許されていますが、証拠書類や陳述書など以外の裁判官が持っていない文書を見て証言することはできません。反対尋問の予想問答などを見ることは絶対にできませんので、予想問答はきちんと覚えてしまう必要があります。

因みに通訳者はあくまでも通訳の役を果たすだけで、証言を補ったりすることは許されていませんので、証言当日には通訳の助けを借りることはできません。よくお客さんと練習をしていてうまくいかないと「諸江さんにうまくやってもらえばいいや」などと通訳の私に頼ろうとする人がいますが、それは勘違いというものです。証言台では孤独に戦わなければならないということを忘れてはなりません。

もう1つ、英語の少し分かる人は、相手の弁護士が以下の言葉を言ったら、内容がなんであれ、絶対に「いいえ」と否定するという鉄則をお教えします。

(1)
I put it to you ・・・・・・・
私はあなたが・・・・であると断言し、それを主張しますが、そうですね?という意味です。

(2)
My instruction is ・・・・・・・・
意味は、私の依頼人が言ったところによると・・・・・・ですが、それは正しいですね?という意味です。

この2つは、相手側が自分たちに都合のよいように話を作り、証人に不利な内容を主張する時に使われます。ですから、どんな内容であろうとも、「いいえ」「同意しません」などと即座に否定してください。そうすれば、証人に不利になるようなことはありません。もちろん真実を主張する時にも使いますが、真実の時も、真実を使って相手を陥れる時に使いますので、この2つが出てきたら、即座に否定をしましょう。

私が今まで通訳してきた証人の皆さんは口を揃えて「2度と証言はしたくない」と言います。「寿命が10年縮まった。」とも言います。私としても、できれば法廷での証言を人生で1度も経験しなくてよい人生を皆さんに歩んでもらいたいと思います。しかしもし証言をしなければならないはめに陥ってしまったら、ぜひ私にご相談ください。マレーシアで一番(親切な)の日本語・英語法廷通訳者ですので・・1番といいましても5人くらいの中の一番ですが・・・(宣伝してすみません。)