マレーシアで生活する日本人(個人)のための法的なアドバイス
第1回 マレーシアで交通事故に遭った時、起こした時

よく日本に住んでいる人から、「今度マレーシアに旅行するんですけど、治安は大丈夫なんでしょうか?」と聞かれることがあります。私の答えはいつでも、「東京の電車のように女性専用車を作らなければならない痴漢大国日本と違って、痴漢はほとんどいないし、白昼都会の真ん中でやくざが発砲するようなこともまずないです。夜中の12時を過ぎても若い女の子が平気で外の屋台で飲み食いしているのがマレーシアです。しかし絶対に気をつけなければいけないのは、自動車です。何しろ人口が日本の5分の1くらいなのに、年間の交通事故の死者の数は日本より多い、つまり交通事故で死ぬ人の数が日本の5倍以上なんですから。」と言うことにしています。

マレーシアに長く住んでいる人で、特に車を自分で運転する人でしたら、1度や2度は交通事故に遭ったことはあると思います。かくいう私も加害者として1度、被害者として1度、警察に出頭する事故を起こし、そして遭いました。自分の実体験から言いますと、マレーシアは加害者天国です。

自分が加害者となった場合、相手が死亡しない限り、事故から24時間以内に管轄の警察に出頭し、罰金を支払って、あとは保険屋さんに任せておけばそれでお終いです。ぶつけてしまった相手が怪我で入院してもお見舞いに行く必要もなく、謝りに行く必要もありません。むしろそのようなことをすると酷い目に遭う可能性があるので、相手の名前も聞かず、自分の名前も教えず、何もなかったかのごとくにしてしまうのが、通常の交通事故の処理方法です。

もし不幸にして相手が死亡してしまった場合には、警察に逮捕されることになり、日本人の場合は、罰金刑などを経て、国外退去となることが多いようですが、死亡した人の方が明らかに悪い場合、たとえばバイクが高速道路を逆行してきて、衝突して、バイクの運転手が死んだというような場合には、お咎めなしになるようです。

逆に被害者となりますと、これは当てられ損になります。自動車については自動車の保険で修理をすることになるわけですが、相手の保険を使って修理をしようとすると半年以上かかるとも言われており、自分の車の保険を使って修理することになります。車の修理の前に査定とかあり、私の場合には修理が終わるまでに1ヶ月以上かかりました。その間、車がないので、最初はレンタカーを借り、あまりに高くて馬鹿らしいので、小型のワゴン車を買って、それに乗っていました。代用の車の代金は自分で払いました。

被害に遭った時に、左手の小指が脱臼し、近くの病院に連れていかれたのですが、その病院で6時間も診察してもらえず、結果的には、たかが脱臼でしたが、処置の遅れで、完全に指が動くようになるまでに1年近くかかりました。因みに6時間もほっておかれた病院とはマラヤ大学病院ですので、救急の場合はあそこに運ばれると死んでしまうので、絶対に避けた方がよいと思います。もちろんその治療費は私の自己負担でした。

マレーシアでは被害者は全く法的に守られていないのかというとそうではありません。手続きとしては、被害者は加害者に対して、民事裁判を起こして、車の被害、怪我の治療費、代用の車に掛かった費用、怪我のために仕事のできなかった期間の収入の補填、後遺症による収入の減少の補填、精神的な被害などについての請求をすることは可能です。しかしこれはあくまでも仕組みとしてそうなっているだけで、実際の民事裁判には大きな障害があります。障害とは以下のようなものです。

@金銭的に、少なくとも日本円で50万円から100万円くらいのお金は用意しなければなりません。最悪の場合、被害請求額に相当する金額を裁判所へ供託することを求められる可能性があります。これは外国人がマレーシアで裁判を起こす時によく課せられる条件で、裁判に外国人が負けた場合に国外に逃げられると、裁判費用などを踏み倒されるので、それを防ぐためです。

A民事裁判は通常結審まで5年から6年かかります。その間に日本へ転勤にでもなれば、裁判のためだけに日本から飛行機代を使って来なければなりません。

そして
B裁判に勝っても、相手が貧乏で請求された金額を支払う能力がない場合には、資産の競売まで行うことはできますが、結局個人破産ということになり、何も取れないということなります。

私も事故に遭った時には、相手のインド系の若者を訴えてやろうと思いました。痛い目に遭い、しかも買ったばかりの新車を傷つけられたので、怒り心頭でした。しかしどう見てもお金がなさそうだったし、この若者を破産に追い込んでも、弁護士が儲かるだけで、私には弁護士への支払いのみが残るだけなので、そのような考えは引っ込めることにしました。

結論から言いますと、もし交通事故の加害者になってしまったら、警察に届けた後は、すべてを保険屋さんに任せて、知らんぷりを決め込むことです。もし被害者になったら、相手が金持ちそうな場合以外は、泣き寝入りをすることです。

長い説明をした後の結論が単純すぎて申し訳ありません。